麻酔のはなし

 今回は「全身麻酔」についてお話します。飼い主さんとお話していると、飼い主さんの抱く全身麻酔のイメージは「怖い、危険、かわいそう」といったところではないかなと感じます。
 獣医師サイドも麻酔をかけずに済めばそれに越した事はないと思っていますが、治療上でどうしても必要な事が数多くあります。麻酔をかけるのがかわいそうという理由で、かえって動物が痛く苦しい思いをしたり、適切に治療した場合に比べて寿命を大幅に縮めてしまう事は避けたいところです。 
 麻酔には3要素という考えがあります。これは大まかに言えば①痛くない②意識がない③体の力が抜けているの3つです。麻酔が深くかかりすぎると心臓や肺に悪影響が出て低酸素、血圧低下、腎臓機能低下などの害が生じますので、麻酔薬に鎮痛剤(痛みをとる薬)、筋弛緩薬(体の力を抜く薬)などの薬を組み合わせて前述の3要素をバランスよく満たしつつ、最小限の麻酔をかけるのが理想的です。例えば、体の力が抜けて動けないけど、意識はあって痛みも感じるなんて想像もしたくないことですね。麻酔が適切かどうかで、動物の生存率に加えて回復までのスピードも左右されます。
 ヒトの場合を含めて全身麻酔は今後も100%安全にはならないでしょうが、常に進化をしています。動物達に使用する麻酔薬も時代と共に変化してきており、僕が大学を卒業した後の10年でも麻酔薬のトレンドはどんどん変わって来ています。
 新しい麻酔法を使用し始めるのは獣医師にとってもストレスフルな作業です。今までの麻酔方法に問題を感じていなかった場合は尚更で、慣れた麻酔が一番安全な麻酔という考えも納得できる考え方です。けれども5年、10年と同じ麻酔方法だけを使用していけば、いずれ期待される医療水準を下回ることになると思います。
 予防医療と栄養学が浸透し、動物達は高齢化していますので、15才を超えるような動物に全身麻酔をかける機会も数多くあります。当院ではドイツ製の高性能麻酔器を導入しており、細やかな呼吸管理が可能です。吸入麻酔薬も複数の薬を使い分けています。また、予想される痛みの程度に応じて医療麻薬も積極的に使用しており、痛いはずの手術の後でも動物達は意外に明るい表情をみせてくれますので、以前はもういい年齢だからと諦めていた動物の病気にも積極的に取り組む事が出来るようになって来ています。今後も良いものは取り入れて、より安全な全身麻酔を提供できるように努めていきたいと思います。