ウサギの麻酔用の喉頭マスク導入
当院では手術のために犬や猫に麻酔をかける時には必ず気管に呼吸用のチューブを入れます。喉の奥には大雑把に言うと食べ物や水が通る食道と空気が通る気管の二通りの入口がありますが、麻酔をかけるときには気管内に密閉した形でチューブを入れて麻酔器に接続します。これによって①麻酔用のガスを効率良く吸入させ、②吐いた息の中の麻酔ガス濃度や二酸化炭素濃度を測定し、③呼吸量が足りなければ人工的に呼吸をさせることができ、安全性の高い麻酔をかけることができます。気管に入れるチューブは人間の小児用の各サイズのものを使用し、麻酔がある程度かかった後に口を開けて気管の入口を目で確認しながら設置します。このチューブは一般的に出回っているもので別に高価なものではありません。
ところが、口の小さなウサギでは気管の入口を目で確認することが非常に困難です。習熟すると目で確認出来なくても盲目的に気管にチューブを入れられるのですが、ウサギの気管に入るチューブは非常に細くて気道抵抗が増したりしますので、チューブを入れずに手術をする方がかえって安全ではないかという考えになっていました。これについてはウサギの手術をたくさんする獣医師の間でも議論があります。
ところが、最近になってイギリスでウサギ用の喉頭マスクというものが開発されました。これは気管の中に入れるものではないですが、ウサギの口の中と完全に同じ形をしており、食道を塞いで気管の入り口にチューブの開口部がピッタリと合うというもので、容易に設置でき人工呼吸も二酸化炭素・麻酔ガス濃度の測定も可能です。
特に犬猫以外の動物の専用の医療器具は作ってもあまりたくさん売れませんから、メーカーも本腰を入れてくれない傾向があります。ウサギの麻酔のためにこのような専用の器具が開発される時代になったことが非常に感慨深いのですが、人間の医療機材の流用に比べるとなんと30倍の値段です。ウサギが予想外のスピードで意識を取り戻して前歯でひと噛みしたら、一発で大赤字になってしまう、獣医泣かせの器具です。しかもウサギのサイズに合わせて複数を準備する必要があります。
もう少ししたら国内のメーカーがこの喉頭マスクの販売を開始する予定らしいですが、時期が未定のために当院では海外から取り寄せました。2kgまでのウサギに対応できます。これまでも出来る限り安全なウサギの麻酔を心がけてきましたが、安全性を増すツールが増えました。願わくば、寝ぼけたウサギさんに噛まれませんように。