当院では子供を産ませる予定のない動物の避妊去勢手術を推奨しています。

当院では犬や猫、ウサギに適切な時期避妊手術や去勢手術を受けさせる事を推奨しています。それはどうしてなのか、実際にはどういった流れになるのか、順に説明していきます。

①避妊・去勢のメリット

 飼育下の犬や猫を自由に繁殖させて、産まれてくる頭数をきちんと面倒をみていくことは事実上不可能であり、不幸な動物達を産み出さないために避妊手術、去勢手術を行うことは私達人間が犬や猫達と暮らしていくために必要なことと考えます。
 それでは、家庭で飼育していて、勝手に繁殖してしまう怖れのない犬や猫の場合は避妊・去勢の必要はないのでしょうか。避妊・去勢していない動物は発情の際には大きなエネルギーを使い、また満たされないストレスを抱えることになります。避妊去勢を不自然な行為と考える方もいますが、人に飼われて自由に行動出来ない状況がすでに不自然な状況なのですから、そのストレスをなくしてあげることも私達飼い主の義務であると考えています。
 また、様々な病気の予防にも避妊・去勢手術が有効です。雌犬は中年齢から高齢になると子宮蓄膿症という子宮の中に膿が溜まる病気になることが高率に起こります。病気になってからの手術は危険が伴いますし、発見が遅れれば命を落とすこともあります。
 また、雌犬も雌猫も若い時期に避妊手術を行うと乳癌の発生率が劇的に下がることが知られています。雄猫は去勢をしないと家の中でマーキングをしたり、外に出かけて喧嘩をして帰ってきたり、交通事故に遭ったりする原因となります。また、雄犬では良性前立腺肥大や会陰ヘルニア、肛門周囲腺腫などの病気の発生が去勢によって抑制されます。精巣の腫瘍も高齢期に多くみられる病気です。

ウサギの避妊去勢手術についてはこちら

②避妊・去勢のデメリット

 避妊・去勢手術にもデメリットがあります。避妊・去勢を行うとエネルギーの消費が減るために同じ量の餌を与えると太りがちになる傾向が出てきます。すでに肥満の動物を避妊・去勢手術すると、その肥満の程度が病的な域になってしまう可能性があります。けれども、肥満の問題は適切な食餌管理を行うことで大抵の場合はクリアできます。
 次に手術そのものの危険性があげられます。避妊手術も去勢手術も全身麻酔下の手術になりますので全身麻酔の危険性が伴います。若く健康な犬や猫でも2000頭に1頭くらいの割合で麻酔によって亡くなるという海外のデータもあります。麻酔薬や全身麻酔器も進歩してきており、安全性は高まってきていますが、危険性は完全に0にはなりません。
 また、ミニチュアダックスフンドなどの特定の犬では避妊手術などの際にお腹の血管を止めるために使用した糸が後々にアレルギー反応を起こすケースが報告されるようになってきています。その対策として当院で使用しているような血管シーリングシステムによる手術が行われるようになってきています。

血管シーリングシステムについては手術設備のページを参照して下さい。

③手術の時期

 避妊・去勢手術を行う適切な時期は犬、猫とも生後6カ月を目安にしています。理由として以下のような事があげられます。

1. 雌はおおむね初回発情前で乳癌の予防効果が高い。
2. 体がほぼ大人に成長しており、手術や麻酔の危険性が低い。
3. 乳歯が生え変わるべき時期なので上手く抜け落ちなかった場合は抜歯を同時に行える。
4. 動物が人懐っこく入院や手術がトラウマになりにくい。
5. 雄のマーキング等の行動も、この時期に手術すれば定着しにくい。

 当院では予防的に行う犬や猫の避妊・去勢手術は治療目的の手術より若干低価格となるように設定していますが、6歳を超える動物の避妊・去勢手術は一般的な手術料金とさせて頂いております。

猫の避妊手術を例に実際の手術の流れを説明します。

以下の項目をクリックすると内容が表示されます。

①来院からお預かりまで

ここはどこだろう・・・

採血の様子

レントゲン検査の様子

 
実際の猫の避妊手術を例にとって説明して行きます。通常、避妊去勢手術に関しては予防接種のきちんと終わった動物を対象にしています。手術や麻酔の影響で免疫力が低下した際に伝染病を発症する危険性を回避するためです。避妊・去勢手術には予約が必要です。また、潜在精巣(精巣がお腹に入っている)、心疾患、乳歯遺残、妊娠の可能性などによって手術内容が変わってきますので特に初診の方は事前に診察が必要となります。
 手術の前の日の夕方にご飯を与えたら、その後は絶食とします。胃に食べ物が入った状態で麻酔をかけた場合、意識の薄れた状態で嘔吐し、それを吸い込む危険性があります。水は朝まで与えてもらって構いません。午前中の10時くらいまでにご来院下さい。診察室で体重、体温測定をはじめ一般的な状態を診察します。発情中は避妊手術は避けた方がいいので、可能性があれば申告して下さい。
 その後血液検査を実施します。血液検査では貧血や肝臓障害の有無、腎臓の機能など、全身麻酔に影響を与えるような以上がないかを調べます。血液検査と並行して胸のレントゲン撮影を行います。血液検査で異常が見つかったり、心臓や肺に問題がありそうであれば手術を延期して、先に見つかった問題の解決を試みます。術前検査が問題なければ、この段階でお預かりになります。

②全身麻酔をかけるまで

ゴメンね。チクッとするよ〜

毛を刈っています。何だか眠いなぁ。

のどにチューブを入れて麻酔開始です。

 お預かりした後、お昼になって点滴の柔らかい針を血管に挿して点滴や麻酔準備の薬剤を投与していきます。
 薬が効いてきて眠くなってきたらお腹の毛を刈ります。これは毛が生えた状態では清潔な手術が出来ないためです。この後、本格的に麻酔を開始していきます。
 全身麻酔に使用する薬剤は多種多様に存在しますが、当院で使用する麻酔薬は安全性が高いとされているものを選択しています。意識がなくなる量の注射麻酔を使用した後に喉にチューブを入れて全身麻酔器と接続してガスの麻酔をかけていきます。その後手術の部位の消毒を行います。

③手術からお迎えまで

麻酔モニターで状態を監視します。

シーリングシステムを使用した手術

翌日退院です。


 全身麻酔中は麻酔モニターで動物の心拍数、呼吸数、体温、血圧、酸素飽和度、呼気中の二酸化炭素濃度などを注意深く見守り、変化に対応した麻酔の調節を行っていきます。当院では猫の避妊手術も血管シーリングシステムを用いて行います。この装置は従来の糸を用いて血管や組織を縛った後に切るという方法ではなく、組織が炭化しない熱量をコントロールしながら加えて変性させ、血管をパックし、連続した操作で切除まで行う機械です。お腹の中に糸を残す事がなくなるため、時には年単位の経過で発生する縫合糸反応性肉芽腫などの問題を回避でき、手術のスピードも格段に早くなります。また、主観的には術後の動物の回復も早いように感じます。
 避妊手術にはいくつかの術式がありますが、当院では犬も猫も卵巣と子宮の両方を切除する手術を行っています。
 麻酔の覚醒を注意深く見守ったら、体温が下がらないように保温機能のあるケージに入れて回復を待ちます。退院は通常は翌日です。生活環境に合わせて抜糸のいらない方法で皮膚の縫合を行うこともあります。帰宅後は安静にして抗生物質を投薬してもらい、約1週間後に再診となります。
 犬の去勢や避妊も概ね同様の流れです。

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